知る・学ぶ
古写真で記憶を辿る聞き取りノート
vol.1 針尾無線塔保存会会長 田平 清男さん
長崎県佐世保市にある国の重要文化財「針尾送信所(針尾無線塔)」。大正時代に建設されたこの巨大なコンクリート塔の麓で、日々訪れる人々にガイドを行っているのが、針尾無線塔保存会会長の田平清男さん(83歳)です。
国の重要文化財指定を機に「地元で保存会を作って管理して欲しい」と市から打診され、平成25年(2013年)から12年にわたり会長を務めています。今回は田平さんに、案内人としての日々や、無線塔が「絶好の遊び場」だったというご自身の幼少期の記憶、そして古い写真に残された当時の姿についてお話を伺いました。
300万人の原風景と、色褪せない「奇跡の技術」
ー ガイドをされて十数年とのことですが、どのような方が見学に来られるのでしょうか?
田平会長: 新型コロナウイルスの流行前は、年間で最高4万4000人ぐらいの方が来られましたね。市内の人は全体の20%ぐらいで、あとの8割は遠方から来られます。
来る方の目的はいろいろですが、ここに特別な思い入れがある方も大勢いらっしゃいます。終戦後、近くの浦頭(うらがしら)の港には300万人以上の方が引き揚げてきました。佐世保湾に入った時、嫌でも目に入るのがこの無線塔です。彼らやそのご家族にとって、この塔は「日本に帰ってきた」という強烈な記憶と結びついているため、「亡くなった母親の遺影と一緒に来た」という方もいらっしゃいます。
今は戦争を知らない人ばかりですから、学校単位で見学に来る子供たちには、「今の平和がいかに大切か、やはり戦争は絶対に引き起こしてはだめだ」と、胸に響くように話して聞かせたりしています。
ー 実際に塔を目の前にして、皆さんはどんなところに驚かれますか?
田平会長: やはり、大正時代の鉄筋コンクリート技術の凄さですね。建設から104年になりますが、一昨年の調査で「あと100年は大丈夫」と言われました。
長持ちする理由としては、海砂ではなく川砂(唐津の松浦川の砂)を使っていることと、純度の高い良い鉄を使っているからです。古い鉄塔によくある内部の腐食がなく、今でも芯まで全く錆びていません。また、雨水が溜まるような場所でもコケや緑色のカビが一切生えず、掃除をしていないのに綺麗に保たれているんです。重機のない時代に延べ100万人が4年かけて建設したにもかかわらず、犠牲者があまり出なかった、当時の安全管理がいかに徹底されていたかにも驚かされます。
3枚の古写真が語る、ありし日の針尾無線塔
てっぺんに乗った三角形
ー ここからは、残された3枚の古いお写真を見ながら当時のお話を伺いたいと思います。まず1枚目ですが、今の塔の姿とは少し違いますね。
田平会長: これは、塔の上に「簪(かんざし)」と呼ばれる鉄骨が乗っていた当時の姿です。一辺18メートル、重さ9トンほどあり、3本の塔を上で線で結ぶ役割を果たしていました。しかし、台風の日に破片が落ちて民家に当たる事故があり、危険だということで昭和57年頃にすべて撤去してしまったんです。
私たちが一番望んでいるのはこの簪の復元ですが、文化財として復元していくにしてもハードルが高く、なかなか難しいのが現状です。その代わり、現在は地元の工業高校の生徒さんが作ってくれた当時のジオラマを電信室に展示しており、かつての姿を見ることができます。
手すりもない!勇気の証を捉えた1枚
ー 続いて2枚目。白黒の写真ですが、てっぺんに人が乗っていますね!
田平会長: それは昭和35年に、私の高校の卒業式の時に同級生3人で登った時の1枚です。手すりのない「冠指の先端」で撮られたもので、そこまで行ける人は「10人登って1人いるかいないか」というほど大変な場所でした。上からの景色は佐世保がほとんど見えて素晴らしかったですが、風の日は少し揺れるんです。流れる雲を眺めていると自分が動いているような気がして、少し怖いような感覚もありましたね。
598段と7分
ー そして3枚目の写真には、さらに大勢の人が階段に写っています。
田平会長: それは私より少し先輩の方々が、高校の卒業式の時に7人で登った時の写真です。当時は「度胸試し」として塔に登るのが日常的な遊びで、親たちも仕事で忙しく止める人がいなかったため、子供たちはしょっちゅう登って遊んでいました。
子供の頃は「ゴーゴーゴー」で555段だと聞いていたのですが、最近数えてもらったところ598段あるそうです。当時ここにいた海上自衛隊員の中には、階段を3段飛ばしにしてわずか7分で登り切った人もいましたよ。現在でも塔の頂上には飛行機がぶつからないための「航空障害灯」があり、3ヶ月に1回、電気屋さんが安全ベルトをつけてこの598段を手登りで点検してくれているんです。
これからの願いと、おすすめの絶景スポット
ー 最後に、田平さんおすすめのスポットや眺めを教えてください。
田平会長: 3号塔から見た景色、西海橋や針尾瀬戸が一望できるところが眺めとしては一番良いですよ。あとはやはり、3号塔の下から上を眺めるのが一番圧巻ではないでしょうか。夜は時々色付きでライトアップもしていますから、たくさんの方が写真を撮りに来てくださっています。
こうしてガイドをしているのは、昔ここで遊んで随分悪いこともしたので、その恩返しという意図と、健康のためです。せっかくの貴重なものですから、いつまでもきちんと残るように、後を継いでやってくれる人がいたらいいなと思っています。
