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地面の中はこうなっている!
図面で見る針尾送信所

地面の中はこうなっている![br]図面で見る針尾送信所

「なぜ、100年倒れないのか」古い図面が教えてくれること



針尾無線塔の構造を詳しく記した図面は、残念ながら現存していません。でも、防衛省防衛研究所に眠っていた配置図や電信室の設計図、近年のボーリング調査データをじっくり読み解いていくと、思わず「そういうことか!」とうなってしまうような、緻密な設計の秘密が次々と浮かび上がってきます。
その1|上から見てはじめてわかる「隠れた幾何学」

その1|上から見てはじめてわかる「隠れた幾何学」

海軍が作成した「佐世保無線電信所位置図」をはじめ、施設の配置図を広げてみると、ちょっと不思議なことに気づきます。3本の塔、どこか規則正しくないですか?

実はこれ、偶然じゃありません。3基の無線塔は、一辺1000尺(約303メートル)の正三角形の頂点に、ぴったりと配置されています。3本の塔の間に巨大なアンテナ(空中線)を張り渡すために計算されつくした配置です。
さらに面白いのが、その中心の設計。各塔からちょうど約150メートルの位置に「電信室」が置かれ、それを半径300メートルの円周道路がぐるりと取り囲んでいます。防衛上の要求を満たしながら、同時に巨大なアンテナ網を力学的に安定させる -広大な敷地全体が、まるで精密な機械のように役割をもって設計されていたんです。

その2|電信室の図面を見ると、まるで「要塞」

その2|電信室の図面を見ると、まるで「要塞」
その2|電信室の図面を見ると、まるで「要塞」
断面図でまず目を引くのが、半円形のアーチ型天井。耐火煉瓦で組まれた、防音と耐弾性を兼ね備えた構造です。東側の機械室は1階から2階まで吹き抜けた高さ約9.55メートルの大空間で、当時の世界でも希少だったアレキサンダーソン型高周波発電機などの巨大な機器が据え付けられていました。
室内の間取りも見ごたえがあります。1階には整流器室・油倉庫・硫酸倉庫、2階には事務室・送信機室・送受信室 -そして特筆すべきは、2階の大部分を占めているという二次電池室の広さ。用途ごとに細かく区画されたフロアを見ていると、「ここで何が動いていたんだろう」と想像が膨らみます。
そして1944年頃、図面にある重要な変更の痕跡。太平洋戦争末期、建物の周囲(特に1階部分)に高さ2.8メートルの土を盛り、建物を地中に埋めてしまう大改修が行われています。空爆の被害を最小限に抑えるための措置です。平時の通信施設が、戦時には文字どおり「要塞」へと姿を変えていった -その記録が、図面の変更履歴にしっかりと刻まれています。

その3|100年倒れない理由は、地面の下にあった

その3|100年倒れない理由は、地面の下にあった
高さ約136メートルの塔が、なぜ100年以上も倒れずに立ち続けているのか -この疑問に答えてくれたのが、近年のボーリング調査です。

地下を掘り進めてわかったのは、各塔の足元(塔本体の外径は約12.19メートル)の下に、直径24.384メートル、深さ約6メートルの巨大な円盤状の鉄筋コンクリート基礎が埋まっているという事実。1基あたりのコンクリートの量は約1,360立方メートル -学校のプール3杯分以上が、地面の下で静かに眠っています。
しかもその基礎は、凝灰角礫岩や安山岩といった非常に硬い岩盤に直接届いています。底面を平らにする「均しコンクリート」の工程すら不要なほど、強固な地盤を的確に選び抜いて建てられている。地上に見えている姿だけでなく、見えない地下にこそ、100年の強さの秘密が隠されていました。

その4|図面が教えてくれる「縁の下の力持ち」たち

その4|図面が教えてくれる「縁の下の力持ち」たち
1926年作成の電燈配置図には、電信室の各室への電力供給ルートが細かく描かれています。機械室の床に設けられた幅1〜1.5メートルの溝は、高出力機器を冷やすための冷却用水路。あの巨大な発電機が発する熱を、こんな仕組みで逃がしていたんですね。

1945年の「引渡目録」に添付された図面にも、目を引く施設が次々と登場します。非常用燃料を保管する油庫、機器の冷却と消火に備えた100トン・400トンの貯水槽、そして海岸から重い資材を引き上げるために敷設されたトロッコ軌道と巻揚機室 -。表舞台には出てこない「縁の下の力持ち」たちの存在が、図面にはきっちりと刻み込まれています。
図面は、建てた人たちの「意図」が直接残った記録です。針尾送信所の図面を読み解いていくと、地形を活かし、岩盤を選び、通信・土木・建築・電気のすべてを一体で設計したこの施設が、単なる「古い塔」ではなく、当時の日本の技術が総力を結集した場所だったことが伝わってきます。
現地を訪れたとき、ぜひ「地下に何が眠っているか」を思い浮かべながら、あの3本の塔を見上げてみてください。